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開発
Energy
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環境建築
Environmental
Architecture
地域づくり
Town/Regional Planning
木質建築
の開発
Timber Structure Development
|
  環境建築 Environmental Architectures of Ben Nakamura
01
環境建築
Environmental
Architectures
of Ben Nakamura
02
余呉やまなみセンター
・はごろもホール
Yogo Yamanami Center
and Hagoromo Cultural Hall
03
大東文化大学
板橋キャンパス
Daito Bunka University
Itabashi Campus
04
七沢希望の丘初等学校
Nanasawa Kibounooka Elementary School
05
木創研
ローコスト・
ゼロエネ住宅
Mokusoken
Low-cost and
Zero Energy House
環境建築
Environmental Architectures of Ben Nakamura
中村事務所は1990年以降25年間、環境問題に取り組み、省エネ型の建築開発を研究してきました。
次にこれまでの環境建築のリストを示します。
施設の運営、消費エネルギーに関しては、ファシリティマネジメントの考え方で数年間のフォローをしています。

■中村勉総合計画事務所の環境建築リスト
01 唐木田住宅団地 1993 断熱材耳緊結、温室タイプ、パッシブ型、気密性能、キマド玄関ドア
02 浪合フォーラム 1994,1997 極寒地の断熱、木造、深夜電力潜熱式床暖房方式、キマド1,2世代
03 豊田市立旭中学校 1996 木造、断熱、断層の転石擁壁利用、キマド2世代
04 中仙水の郷
まちぐるり博物館
1997 つくらない、まちを案内するソフト方式
05 余呉やまなみセンター
はごろもホール
1998 木造、断熱、日射遮蔽、キマド3世代(900×5000FIX採用)
06 日大東北高校アカシア館
(多目的ホール、食堂)
1998 ダイレクトゲイン、光
07 下條いきいきランド 1999 夜間電力床下温水槽床暖利用、キマド大型窓集成材方立方式
08 永福ふれあいの家 2000 ダイレクトゲイン、南農園
09 美麻情報センター 2001 木造、断熱、深庇
10 グランソール奈良 2001 中庭雑木林、病室外部空中歩廊で移動
11 菟田野町役場庁舎
菟田野町保健センター
2000/2001 木造、高窓光、EV一か所
12 横浜市立港北小学校 2001 改修でオープンスクール化、間伐丸太材、木質壁
13 あさぎりの郷 2002 木質空間、屋根熱床下に導入、一方向空気流れ、排気ルート気圧減圧
14 菟田野町立
上笠神木三共住宅
2003 木造三階建て、断熱、遮音、通風、独立型配置、天窓
15 大東文化大学
板橋キャンパス
2006 内外空間、断熱、日射遮蔽、ライトシェルフ、地中熱、スカイソーラー温室型、コージェネ、広場地下に既存地下遊水地利用、地下貯湯蓄熱槽利用、通風、風車・・・、キマド新幹線型片引き窓開発
16 森山保健センター 2005 長崎県産材小径木トラス第五世代利用、ガラス越屋根地下ピット熱循環
17 キマド本社工場 2006 オーストリア断熱パネル、日射遮蔽、バイオマスボイラー湯循環、キマドドルフィン等各種採用
18 和光小学校 2012 子どもの森、開放廊下内外利用、新鮮空気ヒートパイプ、床下空調1,2階共
19 太田市中央小学校 2011 アウトフレーム耐震改修、ペアガラス化、断熱、太陽熱パネル床暖房、ダイレクトゲイン
20 アスク七光台保育園
アスクあじま保育園
2010 木造、地中熱HP、揚水風車、微気候利用通風
21 港区立みなと保健所 2012 8階建て環境誘導型ビル、ソーラーチムニーによる空気・熱エネルギー誘導、外壁含水レンガによる潜熱冷却壁、ナイトパージ、地中熱20本、新鮮空気地下ピットヒートゲイン、対空気汚染気圧コントロール
22 川湯の森病院 2013 木造病院、温泉熱カスケード利用
23 たいようの杜特養 2013 木質空間、地中熱7本、床下空調、壁目地吹き出し
24 特養すずらん中央棟 2013 富士ビューラウンジ
25 サ高住ゆずりはの森 2014 木質空間、温泉ベランダ側
26 毛馬内福祉複合施設 2015 140年旧造り酒屋復元再生、こもせ復元、蔵2棟復元断熱利用
27 木創研ZEH
馬詰邸
シンホリ3棟
2015 超断熱キマドクワトロサッシ利用
28 スカイソーラー発電 河川調節池上空、豪雪地域駐車場上空、工場駐車場上空、住宅斜面地、商店街イベント広場上空
29 千ヶ滝の家 2015 クワトロサッシ、高断熱、高気密、大開口窓、床下空調、蓄熱
30 岡上の家 1995 断熱性能、通風、日射遮蔽、トップライト
31 那須の家 1996 120年前の民家土間袈構利用
32 マンション蓄熱改修 2012 キマド導入、床ダイレクトゲイン、壁蓄熱、一室を温室外部化改修

建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン2050
(PDF:3.40MB)

地球温暖化対策アクションプラン2050
(PDF:4.30MB)
建築学会では2007〜2009に17団体と地球温暖化対策ビジョンを策定した。
その後、各団体は個別にアクションプランを検討した。
これらの活動を2015年に18団体と低炭素社会推進会議に結集した。
■低炭素社会の理想都市と分散型エネルギーネットワーク
2050年の低炭素社会からのバックキャスティングで考えると、現在何を提案すべきかが分かってくる。
それを前提として、パッシブ型の環境建築、ゼロエネルギーハウスを開発していくことが、今、求められているのだ。
2050年社会の概括と、パッシブ環境基本性能とは何か、そして9つの環境基本性能について一つ一つ丁寧に解説を試みている。このコラムに表れている思想は2015年6月に発表した、一般社団法人木創研の基本的考えである。


第1回
2050年問題を考える
(PDF:1.38MB)

第2回
都市構造を考える
(PDF:1.39MB)

第3回
省エネルギー社会へ
(PDF:1.89MB)

第4回
バックキャスティング手法
による省エネ建築
エコハウスの実例(前編)
(PDF:2.24MB)

第5回
バックキャスティング手法
による省エネ建築
エコハウスの実例(後編)
(PDF:1.66MB)

第6回
環境にやさしい
パッシブ型の建築の基本
その1
(PDF:1.50MB)

第7回
環境にやさしい
パッシブ型の建築の基本
その2
(PDF:1.58MB)

第8回
環境にやさしい
パッシブ型の建築の基本
その3
(PDF:2.54MB)


■ 外断熱工法の効果
 外断熱工法は内断熱と比べやはり安全な工法である。浪合フォーラムのV期では前述した内断熱の夏期昼夜間温度差による結露の失敗を教訓に、野地板の上に発泡スチロール35mmを載せ、その上にステンレス溶接工法を行う外断熱工法を採用した。しかも野地板の直下部の空気が流動するように、母屋の上に垂木を組む工法としたのだ。この工法ではさすがに結露等の問題は一切起こらない。ただし、意匠的に垂木と断熱材の厚さの分だけ屋根が厚くなり、さらに屋根端部では断熱材が不要な位置でステンレス板が1段下がる上段付きのぼてっとしたデザインとなるのが気になるところである。

 屋根部に比べて、外壁部ではなかなか外断熱はしにくいのが現状である。これは今後の意匠状の大きな課題であると思っている。小玉祐一郎氏は秋田の飯田川小学校で屋根から外壁全体をステンレスの板でくるんだ、完全外断熱の工法をモデルとして提示してくれたが、意匠的には特殊な解決方法と思われ、一般解にはならないと思っている。野沢正光氏はいわむらかずお絵本の丘美術館で外断熱を木板で行っているが、この方が普遍性はあると思われる。

 壁全体を断熱することは私にとって、デザイン的な手法と矛盾することが多く、RC造のバルコニー等からのヒートブリッジを無くすことが難しいことと同様にうまい解決方法が見つからないでいる、悩み多い課題である。例えば、柱型を室内に出さずに柱の内面に壁を造ろうとすることと、外断熱工法は外部の突出した柱型をもくるまなくてはいけないのかと悩んでしまう。また、柱梁の構造部を強調し、柱梁と壁部分をスリットで分けようとするような、壁の部分を二次部材と見せるデザインとも矛盾するのだ。

RC造のバルコニーがヒートブリッジになるということも、理屈では分かっていても、これも他の解決方法が見いだせないでいる課題の工法である。近年、外断熱工法がもてはやされてきているが、現在のところ、木製外壁と蔵づくり以外にはぴったりしたデザイン手法を見いだせないでいる状態である。
外断熱工法断面詳細図
「エコマテリアル百話」掲載0110
■ 断層を避け、谷を単位とした水系保全型開発
 尾根線は連続的な傾斜線を示していることが普通だが、断層のある部分は尾根線が流れ、少し水平線をつくり、それから元の傾斜に戻るといった形態のパターンが多く見られる。この水平線の上部点を隣り合う尾根に3つ以上見つけ、これらが直線で繋げられれば確実にその位置に断層が走っていると判断できる。大きな 断層の場合には、この水平な部分が大きな広がりをもち、高原台地を形成する。長野県の多くのスキー高原はこの断層台地である。丘陵地での建築はこの断層を避けることが重要なポイントである。

 丘陵地を開発するときに注意するべきもう一つのポイントとして、水系の保存がある。尾根の肩部から下の谷部を一つの水系と見立て、大きな谷は一つの水系で単位とし、小さな谷は2、3を複合して水系単位とし、上下の水系を保存しながら開発する手法であり、環境に与える影響を最小限に抑えることができる。

 こう考えると、大きな尾根の上部を開発することや、地形が変化している地点に建築を建てることは避けるべきであることがわかる。また、谷の水みち部や下層部は堆積土が多く、杭や地盤改良が必要であったり、杭への横力などが考えられるため、ここも避けなければいけない。建築物は開発単位内の小さな尾根部や緩斜面を利用することが望ましい。

 愛知県で旭中学校を設計したときのことである。丘陵地の敷地を歩いてみると、中央の尾根の上部が痩せ尾根で赤松林となっている。周囲の尾根の状況は近すぎて判断できなかったがこれは断層だと感じた。断層の部分は崩れた岩が内部にあるため、地下水が浸透して表面水が少なく、植生としては松などの乾燥土壌を好む樹種が多い。敷地はこの尾根を中央において左右の小さな谷が西に流れている。この部分は堆積層で地下水系も流れている可能性が高く、土石流などの災害の危険性も考えられる。このような判断から上部をグラウンドとして中央の小尾根の下部に校舎を配置する計画とした。案の定、造成施工にあたって上部から処分しきれないほど大量の大石が出た。これを半分に割って割り肌を見せる石積み擁壁とし、デザイン的に建物の下部を固めることができたのは幸いであった。

旭町立旭中学校の造成計画 断層部から掘り出された石を積んだ擁壁
「エコマテリアル百話」掲載0106 / 写真:堀内広治
■ 凍結深度と基礎断熱

 寒冷地での凍上については十分な注意が必要である。凍結深度を調べ、その対策を検討しておくことが望まれる。一つは凍上による破壊を避けること、第2に床下からの熱の放散を防ぐことである。

 長野県の浪合村は標高1,000m、氷点下15℃以下の年も多い厳寒の村である。寒いため雪は細かく、風に飛ばされる。中心部でも雪は水平に走り積もらないが、路面や樋などが日中の融氷融雪と夜間の再凍結によって破壊される。凍結深度は80cmであったので、外部回廊や中庭には1,000mmの深さを砂利と砂に置き換え、建物部には1,200mmの地中梁を内外100mm厚の発泡スチロールでくるみ、スラブ下にも敷き込んだ。通常は建物外周から約1mより内側は地熱があるため断熱の必要は無いとされているが、床暖房を行うことと零下15度にもなる厳寒の風土を考えるとすこし慎重すぎるとはいえ、すべてに厚い断熱材を敷き込むべきだと判断した。通常の35mmでは施工時に作業員の歩行で割れることも心配であった。

 特に犬走り下部の地中梁外側は最もヒートブリッジに成りやすい為、断熱材を忘れてはならない箇所である。ここでは24時間型床暖房により、暖かい朝を過ごしている。

浪合フォーラム全景
「エコマテリアル百話」掲載0108 / 写真:堀内広治
■ 床暖房と木製フローリング
 床暖房の快適さはいうまでもなく、特に24時間型の場合の早朝の快適さは言うに言われぬものだ。温水配管型、電気ヒーター型に加え、最近では蓄熱型の床暖房が表れてきている。設計のし やすさから言えば、深夜電力利用の顕熱蓄熱型が良いのだが、コストの面などさらに改良して欲しい点もある。

  実際の設計ではコストの点から。躯体蓄熱型と顕熱蓄熱型とを使用範囲を分けて採用することが多い。そして深夜電力は原発による余剰電力を安く売ろうとする戦略で、3.11以降は原発に加担したくないことから深夜電力利用は勧めていない。電力業界の寡占による不透明さや、安い時間帯を利用することや、バランスを変えたり、料金体系を契約制から丈量性に変えたりして、分かりにくくしている。

 床暖房の仕上については熱貫流率の高いシートかカーペットが良いと思われるが、実は熱貫流率の低い床が一旦暖まった状態の快適さはたまらない。原弘司さんの自邸や粟津邸などでは床暖房の上に大理石の床が敷き詰められており、裸足で歩く暖かさと堅さが不思議な感触だったことを25年経っても忘れられない。木製フローリングも同様で、柔らかい空間づくりと共に、床暖房の暖かさはひときわ気持ちの良いものである。

 浪合フォーラムでは寒冷地に開放的な空間をつくることを考え、過酷な条件の木製フローリングを開発した。床暖房による暴れがないことは当然であるが、加えて雪国の長靴での過酷な使用に耐えられ、 さらにローコストの実現という条件である。これに秋田のブナフローリングのメーカーが応えてくれ、ポプラ合板の下地にのサクラ単板を集積し、表面にセラミック塗装を行った接着型フローリング製品となった。 工法の簡素化と同時に乾燥材の利用等によって満足のゆく製品が出来たと思っている。

 余談だが、この図書館で思わぬ問題が起こった。小中学生のスニーカーは表面の泥を落としても内部に入り込んだ泥がしばらくすると床暖房で乾燥し、収縮してぽろぽろ落ちてくる。これが踏まれ、汚れと傷を発生するのだ。

 最近、フローリングの弾性が気になりだした。仙田満さんも子どもの足には根太組の木床が弾力性があって良いと述べている。そこでメーカーと協力し、裏のウ レタンフォームを3mmから5mmとしたものを新しく製作した。 この製品は弾性にすぐれ、軽運動場の基準を満たすものとなっている。事務所では高森の高齢 者施設から採用をしている。
浪合フォーラム:2層吹き抜けの図書館ロビー空間
「エコマテリアル百話」掲載0110 / 写真:堀内広治
■ 開放的で透明な空間を木サッシで創る
 寒冷地ではなかなか天井の高い、豊かな空間が出来ない。一般の民家では、最近はアルミサッシに変えたために、さすがに気密性は良くなったが、断熱性能は不十分なままの場合が多く、石油ストーブがたかれて窓が結露で曇っている家が多く見られる。人々は石油ストーブに面している方は暑くて赤くなりながら、反対側の窓側は冷たく、その対比が石油ストーブの暖かさだと錯覚していることも多い。

 なかなか輻射熱を奪われていることを認識しないことが実は不思議な状態とも言える。熱エネルギーは平準化の原理があり、高い温度の物質から低い温度の物質へエネルギーが光と同じように伝わる。これが輻射であり、ガラス面と人との間で熱量が移動しているため、ガラス側が冷たく感じるのだ。

 一般の寒冷地の建物は、吹き抜けなど上部に空気が対流する空間を設けず、窓も小さくしてできるだけ低い状態でくるまっていることが暖かい建物を設計する方 法と思われていた。これに対して、閉鎖的、内向的な空間から開放するためには、木サッシとペアガラスが欠かせない武器となる。ある時にはトリプルガラスや鉛入りのLo-eガラスを使用する必要もある。木サッシの断熱性能はアルミサッシより約2,000倍あり、サッシ部分から結露することはない。ペアガラスもガラス厚が5mm以上あればかなり断熱サッシとして効果がある(断熱係数表参照)。また、零下10゜以下の地域にはLo-eガラスが効果があり、零下15゜以下になる地域ではトリプルガラスが必要となる。もちろん大きめの性能を持つことに越したことはないが。
※2015年現在、キマドクワトロサッシが開発され、世界一の断熱性能を獲得した。これでゼロエネルギーハウスが可能となった。

 長野県の浪合村は零下15℃の寒冷地なため、「浪合フォーラム」では木サッシにLo-eガラスのペアガラスを採用し、深夜電力利用の顕熱型床暖房で暖房している。これで大きな開口をつくり、吹き抜けのある空間として開放的で透明な、しかも1,2階連続感のある空間を獲得した。この効果は大きく、学校が終わった子ども達や一仕事終えたお母さん方が自然と中央の図書館に集まるようになり、話が弾んでいるようである。
浪合フォーラム:木サッシ部
「エコマテリアル百話」掲載0110 / 写真:堀内広治


■ 木構造による軽い屋根表現
 木構造は極めて軽い構造である。最近は上部に軽い構造を採用することが当然の作法のようになってきていて、これを木構造で作れないかと試みを重ねている。もちろん、鉄骨造の軽快さと比べると、部材の太さが太いため、写真では重く見えるのだが、実際の見かけは木の軽さが意識され、ある大きさがないと逆に心許なくなる。学生や若い人はこの材料の強さと太さの感覚、同じ重さを支えるのに必要な太さが理解されないことが多い。また、雑誌だけで判断すると木造が重く見えるといった不利な点があるのは否めない。ただし、鉄骨の場合は外部とのヒートブリッジが出来ることが気になって、熱伝導率の小さな木造の可能性をさらに追求したいと思っている。

最近はこのように軽いデザインが全盛だが、これとは正反対のデザインとして1960年代のブルータリズムを思い起こす。槇事務所の立正大学は高く細い柱(群)が四角いコンクリートの箱を支えていて、その下部の空間的豊かさと、上部との対比が心地よかった。我々は普通より細いプロポーションの良い柱に憧憬を深めていたのだが、70年代に入って槇さんはもう私はトップヘビーはやりませんと言った。材料の重さをデザイン的に考えていなかった当時の自分には、これを不思議に感じたことを昨日のことのように思い出す。このときは槇さんがブルータリズムのコンクリートの重さを不自然と感じ始めた時期なのかもしれない。

 上部構造が軽いことはいろいろ利点が多い。まず当然ながら、地震の水平力に対する固有周期が短いことであろう。従って壊れにくく、万一破壊された場合にも被害は少ない。また、ヒートアイランド現象についても、太陽のエネルギーを最も受ける屋根面が熱容量の大きいRC造であれば、昼間の太陽熱を夜間に放熱することになる。これを避けるために屋上緑化や有孔ブロックなどを屋根面にのせようとするが、よけい重くはなるし、熱容量も多くなるのだ。これが軽い木造で外断熱工法をきちんとしておけば、外皮のステンレス板は熱容量は小さく、また庇を長くしても木構造自体は断熱性能が高いため構造からヒートブリッジをつくることもなくてすむ。こうして出来る長い庇は、夏の強すぎる太陽熱を室内に入れず、冬の長い陽差しを取り込む光のコントロールや、雨や風による外壁やサッシを守る大きな耐久性を高める役目を果たしてくれる。

 また、木構造で屋根をつくると、勾配のデザインがついてくるが、これが室内をゆったりと包み込むような空間に仕立て上げてくれることも、間接的だが大きな利点と考えている。
旭中学校食堂:木構造架構
「エコマテリアル百話」掲載0110 / 写真:堀内広治
■ 風化させるな環境問題
 アメリカのクリントン大統領が先月、CO2削減に関する京都大会の宣言採択を、開発途上国が行うまで延期すると発表した。その瞬間、最近のニュースで環境問題を聞くのは非常に少ないことに気づいた。もうすでに京都大会などは、過去のものになっているような雰囲気に愕然とした。
 深刻な問題を記憶の外にほおりだしてしまう得意技は、日本人の特質なのかも知れないと思う。いつくるかわからない災害。毎年のように襲ってくる台風。突然起こる地震など、日本の風土がもつ天災は人知を越えるものがあり、このことは阪神大震災でもいやというほど身にしみたはずだ。その大震災もややもすれば忘れ去られようとしていることからみれば、環境問題のように一見抽象的に見える課題を忘れるのは簡単なことのようだ。日本の文化が紙と木でできているのは、資源の問題以外にこのような天災に何度となく痛められ、その都度立ち上がるのに好適な方法としてできたのではないかとも思えてくるほどだ。

 環境問題は私たちの世代に与えられた最も重要な課題である。アメリカ文化に影響されて、力づくの機械仕掛けで快適性をかちとったバブル時代。この後遺症が現在、経済的に大きく立ちはだかっているが、これからの低空飛行時代にこそ、地道な環境に対応する考え方と技術を開発することができる絶好の機会ではないかとも思う。それが21世紀の次世代に対する私たちの義務であろう。

建築家の立場から環境と風景について考えてみる。最近、環境圧という考えが非常に気になりだしている。環境圧という考えは海岸の植生を考えてみるとわかりやすい。例えば海岸の植生についてみてみると、砂浜にはハマヒサカキやハイビャクシン、シャリンバイなどの小さな灌木から始まって、松が育ち始めるまでの数十メートルの範囲は、飛砂などによる環境圧が高いことがわかる。だんだん防砂林が効果を発揮すると、高い樹木も植わるようになり、里の風景が現れてくる。環境圧の小さな陸の内部では、自由な植生が楽しめるが、それでも土中の環境を反映して、高木にしてもその土地の高さの限界がある。海岸の砂浜から内陸への断面を考えてみると、放物線の環境圧曲線とでも呼ぶ曲線が存在し、植生はその土地の環境圧を超えることは難しいのだ。

 建築もこの自然の環境圧を超えると、人工の力を誇示することになる。つまり、風土には潜在的に存在する環境圧曲線があって、これを力づくで破壊しようとする建築が現代建築でも目につくが、実際に見てみると寂しくなるほど環境から阻害してしまっている。むしろ環境圧とぎりぎりのバランスで成立しているように見える建築のほうが、全体の風景の中で美しいのだ。そしてこの環境圧は自然だけでなく、他の人工物や人々の視線、生活など同じ要因と考えてよさそうである。
環境を考えると云うことは、いろいろな要因とのバランスをとるということだ。人工と自然とが敵対していると考えると、環境を守る立場からは人が立ち入ることさえ拒まれる。白か黒かという選択である。貴重種の保存などのクリティカルな政策としては必要な場合もあるが、日常生活においてはバランスの考えの方が現実的である。CO2問題も同じように、日常生活における自然環境の破壊という場面では、人間側の主張をどう押さえ、どう折り合うかという、灰色の考え方のほうが力があると思われる。それぞれの場合の環境圧曲線を知った上で、それと折り合いを見つける技術が求められているのだ。
「所論緒論」日刊建設工業新聞1
■ サスティナビリティ
 一昨年のUIA(国際建築家連合)のバルセロナ総会で、メキシコのサラ女史(現会長)から将来の建築家の役割について3つの提案が出された。第一はグローバリゼーション、第二は建築家の相互依存、3つ目はサスティナビリティであった。

 これらはすべて大きな視点では地球環境の保全と密接に結びついている。各地域の建築家はお互いにネットワークを結び、それぞれのノウハウを別の地域の建築家に提供しながら、グローバルな視点で環境問題にかかわることが必要だと説き、建築家の相互依存とグローバリゼーションの課題、そして環境はもはや一地域の問題ではなく、また解決の方法も広くなっており、地球規模で解決するしか方法がないという主張であった。この中のサスティナビリティに関する課題は、環境と共生するためのハード面の技術開発に関するものである。

 筆者はこの15年来、リアリティのある建築や町づくりとは何かを考えてきた。その結果として、サスティナビリティの高い建築と表現してもよい建築を実践してきた。実践を通じて、建築を真にリアリティのある、持続可能なものにするには、実はハード面のみでなくソフトな面が非常に重要であるということを最近特に感じるようになった。現実に殆どの設計のエネルギーは人々との議論に費やされているが、実際の運営や利用を行う人々の計画への参加が、利用率の高い、また将来の変化に耐えうる建築をつくるのだと思う。

 ハードな面のサスティナビリティに関しては、省エネルギーや代替エネルギー技術として、断熱・気密性能の向上や太陽熱パッシブ利用などの実践技術が開発されている。筆者の実践例においても、四季の温度湿度の変化、風、雨、雪などの空気環境、特に微気象への対応が重要なデザイン要因となっている。
 例えば、台風が年4回も襲う土地、零下15度にもなる厳寒の地、雪解け時の飽和湿度で外壁結露する建物、2.5mもの湿った雪を屋根に乗せておく建物、夏の昼と夜の温度差が大きい高原で屋根裏が結露する建物など、気象に関する課題が多く、対策も多様となる。

 例えば、凍上防止の砂利層、土中への断熱、熱貫流の小さな木材の使用、断熱効果の高いペアガラスや鉛入りガラスの採用や木製サッシの開発、木材の乾燥技術と集成材技術の発展、外断熱工法、ステンレス溶接工法、深夜電力利用の蓄熱型床暖房、太陽熱のパッシブ利用、床暖房でも可能な木製フローリングの開発等、環境共生として開発された技術を駆使して、風土の力に応答する建築のあり方を探ってきた。

 一方、ソフト面の技術とは、今日的課題を加味した上で、地域の人と本音の議論を行い、そこから生まれてくるテーマと具体的運営・利用方式を考えるという、住民の主体的参加によるプログラム作りである。

 ある村の福祉施設では、具体的な設計に入ってから4年間の視察と議論を行い、別の中学校では一年間という短い設計期間だったが、延べ60回ものワークショップを開いて議論した。議論を重ねるほど各部における活動のイメージが具体化し、確信が持てるようになった。

 それにも増して緊密な議論の結果、人々が自分の家のように愛着をもったのは重要な結果だった。自分の家のように考えられれば、将来の変化に対しても改良することは自分の責任で行えることになり、その時の決断に自信が持てるということでもあるからだ。これがソフトな意味でのサスティナビリティ(持続可能)ということだと思う。
所論緒論」日刊建設工業新聞2
■ 個の尊重
 現在日本建築家協会が事務局となって、ユネスコの一機関である国際建築家連盟のワーキングプログラム「未来の建築」が毎年世界各地で開催されている。昨年はヘルシンキで開かれたがその会議で、フィンランド大学社会学者リスト・エラサーリ氏(Risto Erasaari)の講義を聴いた。氏は社会政策に関するキーワードとして、福祉よりも個の尊重、確かさよりも不確定さ、安定よりも不安定に変わりつつあると説かれた。そして社会には、多様なライフスタイル、問題意識、可能性、ニーズがあり、個を尊重することが今後の課題であると指摘された。

 福祉とは社会的弱者に手をさしのべ、全体としての安定性を確保したいとの考えから生まれたものではなかったか。福祉が狭義の意味でなく、公共性という広い意味を持つことも再認識させられたことだが、さらに全体のシステムから個の尊重へ、社会政策の重心が動いていることに興味を覚えた。

 個というとエゴイズムなど誤解を生むことも予想されるが、この10年ぐらいたずさわってきた各地の先進的な計画を考えてみると、そこには必ず個からの発想が優先していたことに思い当たる。

 福祉環境にしても教育環境にしても、また全体の社会施設の環境にも云えることだが、日本の10年前までの政策はマイナスをゼロにするものであり、それがこの10年間でやっと質を考える時代になったと思っていた。

 既存の福祉施設を各地の人と訪問する度に、自分たちが入りたいと思える環境でないと生き生きとした環境にならないという議論になる。学校の一斉授業、福祉のデイサービス活動などの集団的活動は個性を萎縮させ、問題も多いのだ。どうしたら個人の尊厳を尊重した、生き甲斐を持てる活動ができるのだろうか。

 自分たちもじきに高齢者の仲間入りをする。そのとき高齢者施設を楽しく、生き生きとして利用し、余生を生き甲斐をもって暮らせるだろうか。自分が入りたいという施設はどんな環境なのだろうか。自分という個の存在を通してみないと今後の高齢者施設のあり方が出てこないのではないかと考え始めている。

 ある中学校の設計の場合でも個の尊重は重要なテーマだった。子供たちが自主的に学習する力とは、知識を教えることで育つのではなく、好奇心と集中力を養い高めることではないかと思う。そして先生が子供たちと近い距離にいて、先生自らが好奇心をもって教材研究に接する姿を、子供たちに示すことが必要と考え始めている。

 そのためには一般科目も教科固有の教室をもち、室内の掲示、教材棚などを生徒の好奇心を刺激するように充実し、教員が職員室よりも教科教室の中の教材研究ステーションに多くいるという方式が有効となる。最終的には目標に達する方法を生徒自身が教材の中から選んだり、図書室や情報網から探し出して自ら考えるのが理想とされている。

 個を尊重するということは、言うはやさしく、行うに難しとは思う。したがってエラサーリ氏のいう不確定さや不安定さに対して、現実にはどんな具体的な方法がありうるかを今後追求する必要がある。全体を管理するシステムが20世紀に作られてきたとすれば、21世紀の課題は、個への柔らかな対応を行える仕組みはどうあるべきかではないかと思う。
「所論緒論」日刊建設工業新聞3


■ すばらしい春秋空間は不快な夏冬を超越できるか
 環境建築の評価はだれがどのように下すのだろうか。環境建築の求める先はどこにあるのだろうか。

 最近、国土交通省はCASBEEを開発し、名古屋市や大阪市がこれを環境計画書に採用することになり、青森県など他の自治体へも広がりをみせている。世界の環境建築評価指標としては、BREEAM(イギリス)、LEED(アメリカ)、GBツール(カナダ)などが使われ、アメリカの建築家などは名刺にLEED建築家という肩書きをつけるほどである。この国産のCASBEE評価指標が最近中国に採用されることになったことを聞いたが、アジアの風土の中から生まれた日本の評価指標がその風土の中での価値が認められたわけで、ソフト分野の国際化への成功例として今後が期待される。

 一方住宅など、ライフスタイルによって居住者の満足度が左右される建築では、かならずしも満遍なく快適な環境が良いとはいえないこともわかってきた。現在、建築家協会では環境建築賞を設け、様々な環境建築を表彰しているが、その中にはすばらしい界隈空間を創出したものや、朽ち倒れそうな民家を復活した例など、エネルギー問題だけでなく環境を丁寧に創り出している作品も多く表彰されている。

 建築家協会の環境行動委員会では建築家が自分で簡単にエネルギー消費を把握できるツールとして環境データシートを作成した。家庭で毎月支払う電気代、ガス代、灯油代、水道代などのエネルギーをその量と金額を一年間記録し(会社に問い合わせると資料をもらえる)、それを代入すればエネルギー消費やCO2消費量がグラフに表示される簡単なシートである。建築や設備の学会などでの調査の結果と比較すると、その建築のエネルギー的位置づけが自分で把握できるツールとして開発されたもので、CASBEEが客観的評価を目指しているのに対して、設計の工夫がエネルギー消費のどの分野に影響するかを自分で推察できるところに重きをおいたツールである。まだ試行段階であるが、その検討過程で2つのモデル的住宅を徹底研究したところ大変興味深い結果が生まれた。その一端を紹介する。

 H邸は環境建築家の自邸で、環境建築として考えるべきことを考えぬいた住宅である。木造の構造は新しい架構形式で、小さな部材を互い違いに重ねて栓で一体化し、金物を使わない在来工法のよさを取り入れている。断熱材は屋根面に注入式セルロース系断熱材、外壁面にオーストラリア製衣類リサイクル断熱材などを採用して十分な断熱性能をもっている。未利用エネルギーとして太陽熱と雨水・井戸水を利用している。太陽熱利用としては、屋根面から直接集熱するOMソーラーシステムを採用し、居間の室温は21〜22℃で冬でも安定している。自然の通風・夜間換気によることが中心で、エアコンはほとんど使用していない。雨水と井水と複合して貯留槽 (2 トン)に蓄え、雑用水や野菜・果樹(柿、ざくろ、みかん)園の散水用に使用している。生ごみは電気による生ゴミ処理機で堆肥をつくり、全て菜園に利用している。6人家族がいつも風呂に入れるように電気の24時間風呂を利用している。H邸では生ごみ処理機や24時間風呂などの一般より電気を多く利用しているにもかかわらず、エネルギー消費は0.3ギガジュール/u年と環境建築先進事例の中でも良い結果が得られている。

 もう一つのY邸は環境建築とは対照的なコンクリートとガラスの建物である。香港島の文武廟、ローマのパラッツオ・マッシーモの中庭における空間体験をきっかけとして造られた3戸の集合住宅である。建物の中心に内部空間として構成された「ソト」---中庭をもつ。天と地に向く垂直軸の存在感のある建物である。断熱材は一切無く、屋根面も防水コンクリート一体工法で断熱も天井も無く、周囲は内外コンクリート、ガラスが中庭を囲っている。サッシは香港やシンガポールから輸入した鉄製サッシで隙間風がはいる、熱帯仕様のサッシである。ガラスルーバーには内側にジッパーのついたビニールカーテンがつけらているが、下部は隙間がある。訪問した3月はじめは寒い日で、居間には排気筒付灯油ストーブと壁掛け電気エアコン、そしてスタンド型の灯油ストーブの3つが置かれていた。寒い日は冬の野原で焚き火をしているような感じだという。Y氏と夫人は灯油をできるだけ利用するなど、エネルギー消費を抑えるライフスタイルの工夫を行い、一時期はダイニングテーブルの下にヒーターを入れ、コタツのように布で覆って食事をしていたという。Y邸のエネルギー消費は0.7ギガジュール/u年とかなり高い消費結果が得られた。

 理科大の井上研究室での4,000もの事例研究では、様々なライフスタイルによって違いが出ることが分かってきているが、この二つの事例を徹底研究すると環境建築の快適性評価と建築に対する満足度の相関が分かってくる。

 H邸では快適さと満足度は一致し、環境建築のモデルとなっていることがわかる。一方のY邸では、冬の寒さや夏の暑さは厳しく、何歳まで耐えられるかと話している程だが、一方中間期の空間のすばらしさは他に替えがたいものがあり、このシーズンの満足度がかれらの一年間の生活観を支えている。快適さは一年の4ヶ月ほどだがその間の満足度は高く、他の不快さを補うほどである。

 こうしてみると建築は快適性や省エネ率でのみ評価できるのでなく、あるすばらしい空間体験によってその満足感が建築を愛し、耐え忍ぶ力となることもあるということを知ったのである。住宅が一人個人のものである場合は、このように個人的な満足度によって他の不快感は耐えられるものになるが、公共的な性格をもつとそのバランスが問題とされる。また、環境に意識の高い人でも24時間風呂やゴミ処理機などで電気を消費していたり、安心感から使いすぎるといったリバウンド現象も課題となる。環境建築はどこまで省エネ化を目標とすべきか、どこまでライフスタイルの意識改革ができるかなど、考えさせられる研究であった。
「所論緒論」日刊建設工業新聞4
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