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10 サスティナビリティ |
一昨年のUIA(国際建築家連合)のバルセロナ総会で、メキシコのサラ女史(現会長)から将来の建築家の役割について3つの提案が出された。第一はグローバリゼーション、第二は建築家の相互依存、3つ目はサスティナビリティであった。
これらはすべて大きな視点では地球環境の保全と密接に結びついている。各地域の建築家はお互いにネットワークを結び、それぞれのノウハウを別の地域の建築家に提供しながら、グローバルな視点で環境問題にかかわることが必要だと説き、建築家の相互依存とグローバリゼーションの課題、そして環境はもはや一地域の問題ではなく、また解決の方法も広くなっており、地球規模で解決するしか方法がないという主張であった。この中のサスティナビリティに関する課題は、環境と共生するためのハード面の技術開発に関するものである。
筆者はこの15年来、リアリティのある建築や町づくりとは何かを考えてきた。その結果として、サスティナビリティの高い建築と表現してもよい建築を実践してきた。実践を通じて、建築を真にリアリティのある、持続可能なものにするには、実はハード面のみでなくソフトな面が非常に重要であるということを最近特に感じるようになった。現実に殆どの設計のエネルギーは人々との議論に費やされているが、実際の運営や利用を行う人々の計画への参加が、利用率の高い、また将来の変化に耐えうる建築をつくるのだと思う。
ハードな面のサスティナビリティに関しては、省エネルギーや代替エネルギー技術として、断熱・気密性能の向上や太陽熱パッシブ利用などの実践技術が開発されている。筆者の実践例においても、四季の温度湿度の変化、風、雨、雪などの空気環境、特に微気象への対応が重要なデザイン要因となっている。
例えば、台風が年4回も襲う土地、零下15度にもなる厳寒の地、雪解け時の飽和湿度で外壁結露する建物、2.5mもの湿った雪を屋根に乗せておく建物、夏の昼と夜の温度差が大きい高原で屋根裏が結露する建物など、気象に関する課題が多く、対策も多様となる。
例えば、凍上防止の砂利層、土中への断熱、熱貫流の小さな木材の使用、断熱効果の高いペアガラスや鉛入りガラスの採用や木製サッシの開発、木材の乾燥技術と集成材技術の発展、外断熱工法、ステンレス溶接工法、深夜電力利用の蓄熱型床暖房、太陽熱のパッシブ利用、床暖房でも可能な木製フローリングの開発等、環境共生として開発された技術を駆使して、風土の力に応答する建築のあり方を探ってきた。
一方、ソフト面の技術とは、今日的課題を加味した上で、地域の人と本音の議論を行い、そこから生まれてくるテーマと具体的運営・利用方式を考えるという、住民の主体的参加によるプログラム作りである。
ある村の福祉施設では、具体的な設計に入ってから4年間の視察と議論を行い、別の中学校では一年間という短い設計期間だったが、延べ60回ものワークショップを開いて議論した。議論を重ねるほど各部における活動のイメージが具体化し、確信が持てるようになった。
それにも増して緊密な議論の結果、人々が自分の家のように愛着をもったのは重要な結果だった。自分の家のように考えられれば、将来の変化に対しても改良することは自分の責任で行えることになり、その時の決断に自信が持てるということでもあるからだ。これがソフトな意味でのサスティナビリティ(持続可能)ということだと思う。
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「所論緒論」日刊建設工業新聞2 |
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