TOP HOT NEWS PROFILE WORKS 復興構想
Recovery Plan
for Fukushim
エネルギー
開発
Energy
Development
環境建築
Environmental
Architecture
地域づくり
Town/Regional Planning
木質建築
の開発
Timber Structure Development
COLUMN
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   COLUMN 11 個の尊重
01
断層を避け、谷を単位とした水系保全型開発
02
凍結深度と基礎断熱
03
床暖房と木質フローリング
04
開放的で透明な空間を木サッシで創る
05
エンジニアリングウッドの可能性
06
内断熱の失敗
07
外断熱工法の効果
08
木構造による軽い屋根表現
09
風化させるな環境問題
10
サスティナビリティ
11
個の尊重
12
汐留都市再開発での都市デザインの欠落
13
東京の空の不思議
14
すばらしい春秋空間は不快な夏冬を超越できるか
15
だれがデザインの責任を負うのか(第三者監理の課題)
16
吉武研究室での刺激的時間
17
風景を凛と引き締める屋根
18
木造の第五世代
19
現代の職人
20
ASIA WEEK
島塚 容子氏
21
Sustainable Designworks
2000-2007
22
Nanasawa Kibonooka
Elementary School
23
建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン 2050
24
木の魅力を拡げる
25
木造でつくる、
次世代の「近代建築」
Timber Structural
Development Will Spread
The Next Generation
Of The Modern Architecture
26
Thinking outside
the usual white box
27
地球温暖化対策
アクションプラン2050
28
低炭素社会の理想都市と
分散型エネルギー
ネットワーク
Ideal Environmental City
For The Low Carbon Society
And The Dispersed
Energy Network
11 個の尊重
 現在日本建築家協会が事務局となって、ユネスコの一機関である国際建築家連盟のワーキングプログラム「未来の建築」が毎年世界各地で開催されている。昨年はヘルシンキで開かれたがその会議で、フィンランド大学社会学者リスト・エラサーリ氏(Risto Erasaari)の講義を聴いた。氏は社会政策に関するキーワードとして、福祉よりも個の尊重、確かさよりも不確定さ、安定よりも不安定に変わりつつあると説かれた。そして社会には、多様なライフスタイル、問題意識、可能性、ニーズがあり、個を尊重することが今後の課題であると指摘された。

 福祉とは社会的弱者に手をさしのべ、全体としての安定性を確保したいとの考えから生まれたものではなかったか。福祉が狭義の意味でなく、公共性という広い意味を持つことも再認識させられたことだが、さらに全体のシステムから個の尊重へ、社会政策の重心が動いていることに興味を覚えた。

 個というとエゴイズムなど誤解を生むことも予想されるが、この10年ぐらいたずさわってきた各地の先進的な計画を考えてみると、そこには必ず個からの発想が優先していたことに思い当たる。

 福祉環境にしても教育環境にしても、また全体の社会施設の環境にも云えることだが、日本の10年前までの政策はマイナスをゼロにするものであり、それがこの10年間でやっと質を考える時代になったと思っていた。

 既存の福祉施設を各地の人と訪問する度に、自分たちが入りたいと思える環境でないと生き生きとした環境にならないという議論になる。学校の一斉授業、福祉のデイサービス活動などの集団的活動は個性を萎縮させ、問題も多いのだ。どうしたら個人の尊厳を尊重した、生き甲斐を持てる活動ができるのだろうか。

 自分たちもじきに高齢者の仲間入りをする。そのとき高齢者施設を楽しく、生き生きとして利用し、余生を生き甲斐をもって暮らせるだろうか。自分が入りたいという施設はどんな環境なのだろうか。自分という個の存在を通してみないと今後の高齢者施設のあり方が出てこないのではないかと考え始めている。

 ある中学校の設計の場合でも個の尊重は重要なテーマだった。子供たちが自主的に学習する力とは、知識を教えることで育つのではなく、好奇心と集中力を養い高めることではないかと思う。そして先生が子供たちと近い距離にいて、先生自らが好奇心をもって教材研究に接する姿を、子供たちに示すことが必要と考え始めている。

 そのためには一般科目も教科固有の教室をもち、室内の掲示、教材棚などを生徒の好奇心を刺激するように充実し、教員が職員室よりも教科教室の中の教材研究ステーションに多くいるという方式が有効となる。最終的には目標に達する方法を生徒自身が教材の中から選んだり、図書室や情報網から探し出して自ら考えるのが理想とされている。

 個を尊重するということは、言うはやさしく、行うに難しとは思う。したがってエラサーリ氏のいう不確定さや不安定さに対して、現実にはどんな具体的な方法がありうるかを今後追求する必要がある。全体を管理するシステムが20世紀に作られてきたとすれば、21世紀の課題は、個への柔らかな対応を行える仕組みはどうあるべきかではないかと思う。
「所論緒論」日刊建設工業新聞3
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