TOP HOT NEWS PROFILE WORKS 復興構想
Recovery Plan
for Fukushim
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Energy
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環境建築
Environmental
Architecture
地域づくり
Town/Regional Planning
木質建築
の開発
Timber Structure Development
COLUMN
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   COLUMN 19 現代の職人
01
断層を避け、谷を単位とした水系保全型開発
02
凍結深度と基礎断熱
03
床暖房と木質フローリング
04
開放的で透明な空間を木サッシで創る
05
エンジニアリングウッドの可能性
06
内断熱の失敗
07
外断熱工法の効果
08
木構造による軽い屋根表現
09
風化させるな環境問題
10
サスティナビリティ
11
個の尊重
12
汐留都市再開発での都市デザインの欠落
13
東京の空の不思議
14
すばらしい春秋空間は不快な夏冬を超越できるか
15
だれがデザインの責任を負うのか(第三者監理の課題)
16
吉武研究室での刺激的時間
17
風景を凛と引き締める屋根
18
木造の第五世代
19
現代の職人
20
ASIA WEEK
島塚 容子氏
21
Sustainable Designworks
2000-2007
22
Nanasawa Kibonooka
Elementary School
23
建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン 2050
24
木の魅力を拡げる
25
木造でつくる、
次世代の「近代建築」
Timber Structural
Development Will Spread
The Next Generation
Of The Modern Architecture
26
Thinking outside
the usual white box
27
地球温暖化対策
アクションプラン2050
28
低炭素社会の理想都市と
分散型エネルギー
ネットワーク
Ideal Environmental City
For The Low Carbon Society
And The Dispersed
Energy Network
19 現代の職人
● 職人の歴史
 古代から中世にかけて、「小屋をつくる技能」は誰もが住まいをつくるために持っていた技能である。物差しも無く、人体寸法で作っていた。これに対し、「堂を建てる技術」は物差しを使って建築した技術で、神社、寺院建立の技術であった。奈良時代の仏教伝来の頃にはすでに多くの職人がいて、渡来技術者の大伽藍建設に協力したといわれている。平安時代までは寺院や貴族の住まいが職人技術の対象であったが、武家政権以降に地方の権力者が登場すると、建築の需要が増大し、堂をつくる技術は地方にも伝播した。
近世以降の建築職種分類としては、惣大工の下に土方、石工、鳶、大工、左官、建具師、畳屋、瓦屋、庭師などの職人がいた。さらに産業や生活用品などの用途の多様化に対応する専業化が進むと、大工にも家大工、指物大工、車大工、船大工、桶大工などが登場した。
 明治時代になると、洋風建築の導入や近代工業の発達により、新しい技術や工法が開発され、その結果、新しい分野の大工、工務店、職方が登場し、逆に多くの職種が消滅した。
 現代は近代工業化による大量生産の結果、ものは至る所に溢れ、容易に手に入るようになり、その有難味が極度にうすれてきた。ものが大切な財産だった時代から、ものそのものが生み出すサービスやソフトに価値が移ってきたといえる。同時に近代工業化は結果として地球環境に影響を与えたり、生物や人間を死に追いやったりする場合も現れてきた。現代はこの地球環境を持続させるためのたくさんの智恵が求められている時代といえる。
● 修業と技術本
 職人の組織は親方−職人−徒弟を基本とし、徒弟、つまり小僧で入門、見習いとして、<@馴れて身に付け、A教えてもらって覚え、B習って高める>の修業をした。@、Aは親方や兄弟子たちによって授けられる、技能習得と職人の持つべき常識である。この修業によって職人は社会に出て技能差を持ちながらも働くことができた。Bは一生の修業であり、各人の人間性が大きく関与し、真の親方になるための修業といわれる。
修業の基本は仕事の型の習得にあり、型とは「匠明」(平内家技術書)によれば、五意に通じ、昼夜怠らず、古人のつくった地割と格好の好悪を見分け、参考にするべしとある。五意とは「式尺の墨曲」(規矩術を含む設計技術)、「算合」(積算)、「手仕事」(大工技能)、「絵様」「彫物」(飾り絵、彫刻)をいう。これらは建築生産体制の設計、施工、管理の流れを示している。そして職人には技能のみでなく古人の作風を良く調べ、自分の独自性を発揮することが求められていた。その他の江戸時代以降の技術書としては、「武家雛形」、「紙上蜃気」、「家舶心得集」、「愚子見記」などがある。
「匠明」(東京大学工学部建築学科図書館蔵)
表紙外観写真 殿屋集 昔六間七間主殿之図
● 現代の若者のものづくり離れの原因
 現代の若者に職人やものづくりが敬遠されている原因として次の5点が考えられる。 @.ものづくりが身近になく、ほとんど実態が見えず、ものに触れて感動する機会がなくなった。A.大量生産、効率化の追求のために、社会の専業化や分業化が進み、一人一人は生産ラインの一歯車の役割を担い、自己実現がしにくい社会になった。B.科学の進歩の結果、ロボット化が進み、木造建築においてもプレカット生産が普及してきた。その結果、職人の必要性がなくなり、社会的評価も変わり、誇りも失われてきた。C.労働に汗する体験がなく、汗する喜びも体感したことが少ない。D.従来の徒弟制度的な技能者育成環境から近代的雇用契約による会社・社員の関係に変わってきた、などが挙げられる。
● これからの職人像
 これからの職人像としては次のような資質と能力を備えていることが理想とされる。
 新しい科学が生まれると、その種子から新しい技術が開発され、生活が革新され、社会需要が喚起される。その需要に応えるためにさらに新しい技術が開発され、科学を刺激する。この種子・革新・需要・刺激の円環的関係が世の中を進歩させていくと考えると、新しい職人(テクノロジスト)は豊かな感性をもって、基本技能に習熟し、科学技術への知識を応用して、普遍・汎用的なものを創造することが求められる。時代を切り開いていく新しい発見や発明は知識だけでなく、感性による飛躍力が必要である。感性の豊かさは環境の変化にも敏感で、地球環境問題を水平思考でみることができる鋭さをもつ。さらに社会の動きを広い視野で把握し、社会需要を喚起する影響力をもち、社会変化に柔軟に対応できるマネージメント能力をもつことも必要となる。
● 社会的倫理の必要性
 職人は従来の徒弟制度の中では、「職人は一生修業」「くらしは下を見て、仕事は上を見て励め」「職人は貧乏でも世の人の宝となれ」と教えられてきた。徒弟の期間に、博打をしない、買わない、欲しがらないという倫理が徹底的に叩き込まれ、これに反すると破門という形で社会から締め出されていった。
それに対し、現代の社会構造の変化、生産性・効率性の追求、無駄の排除、その結果としての非人間的な社会、そして情報の氾濫する社会において、様々な規律が崩壊しつつある。職人としての自己を律する精神性、社会的倫理をどう教育するかが現代の職人教育の大きな問題となる。
現代の職人は自律的にしっかりとした倫理観をもつことが必要である。すなわち、社会と互いに利益を分かち合い、共生する生産体制、価値観を作り上げる視点とリーダーシップが求められ、そのために自らを律する倫理的責任感をもって社会に接し、人間性を回復し、基幹となる人づくりができなければならない。職人は人から信頼され、製作したものに新しい価値を生み出し、社会に人間性を回復し、循環型社会を構築し、最終的に持続的な地球環境の創造に寄与することが求められている。
建築学大百科
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